涼しくなると睡眠時間は本当に伸びる|日本人6万8千人の実測で9月から10月に12分、増えたのは朝の側だった

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夜が涼しくなってくると、眠りやすくなった気がします。この「気がする」は、実際に測られています。
心電図検査を受けた日本人68,604人の体の動きから睡眠を推定した研究によると、平均の睡眠時間は9月が6時間45分、10月が6時間57分。ひと月で12分伸びます。しかも、伸びたぶんはほとんど朝の側でした。夜ふかしをやめたわけではなく、起きる時刻が後ろにずれていたのです。
ただし、この伸びがはっきり出るのは中高年です。若い世代には別の事情があり、そちらは後半で触れます。
9月から10月で12分、1月までに33分
このデータは、心電図を24時間記録するホルター心電計に入っている加速度センサーの値を機械学習で睡眠・覚醒に判定し、月ごとに、別々の人の記録を平均したものです。大阪大学・名古屋市立大学・東京大学の研究チームが2021年に発表しました。
| 月 | 総睡眠時間 | 就床時刻 | 起床時刻 |
|---|---|---|---|
| 7月 | 6時間39分 | 22:23 | 6:06 |
| 8月 | 6時間44分 | 22:13 | 6:02 |
| 9月 | 6時間45分 | 22:13 | 6:01 |
| 10月 | 6時間57分 | 22:15 | 6:10 |
| 11月 | 7時間5分 | 22:19 | 6:17 |
| 12月 | 7時間10分 | 22:25 | 6:23 |
| 1月 | 7時間18分 | 22:19 | 6:27 |
いちばん短いのが7月、いちばん長いのが1月で、その差は約40分。9月から10月にかけての12分は、1年のなかでも大きく動く場面です。9月から1月までなら33分伸びます。
増えたのは、寝る側ではなく起きる側
表の右2列を見ると、動き方がずいぶん違います。
就床時刻は、1年を通して22時13分から22時26分の範囲にしか動きません。幅にして13分です。論文も「就床時刻には明確な季節性がなかった」と書いています。一方で起床時刻は、9月の6時01分から1月の6時27分まで、26分ぶん後ろへずれます。こちらは日の出時刻と正の相関がありました。
9月から10月の12分を分解すると、こうなります。ベッドにいる時間が7分増え(起床が9分遅くなり、就床は2分遅くなったので差し引き7分)、夜中に目を覚ましている時間が4分減り、寝つくまでの時間が2分短くなった。足すと13分ほどで、実際の差12分とほぼ合います(時刻を分単位に丸めているので、わずかにずれます)。
つまり「涼しいから早く寝る」のではありません。寝る時刻は変えないまま、朝ぎりぎりまで眠っていられるようになる。それが秋の眠りの伸び方です。
気温が1℃下がるごとに、睡眠時間は約1.6分伸びる
この研究のもうひとつの成果は、どの気象条件が効いているかを統計的に選り分けたことです。気温・湿度・気圧・日の出時刻・日の入り時刻を候補に入れて回帰分析にかけたところ、睡眠時間を説明する変数として残ったのは気温だけでした。
係数は1℃あたり−1.58分。気温が1℃上がるごとに睡眠時間が1.6分ほど削られ、逆に1℃下がれば1.6分戻る、という関係です。ほかの項目にも同じ向きの係数が付きました。気温が1℃上がるごとに、寝つくまでの時間は0.11分延び、夜中に目を覚ましている時間は0.48分増え、睡眠効率は0.111ポイント下がります。
ただし、この直線の関係がはっきりしているのは日平均気温が5℃を上回る範囲です。5℃を下回ると睡眠効率と中途覚醒はむしろ悪くなる傾向が見え、論文は気温と眠りの質の関係をU字だとしています。寒ければ寒いほどよい、ではありません。
湿度・気圧・日の入り時刻は、どのモデルでも有意な説明変数として選ばれませんでした。蒸し暑さのほうが効きそうな気もしますが、この分析では気温が主役でした。日の出時刻が選ばれたのは起床時刻のほうで、朝の明るさが起きる時刻を決め、気温が眠りの中身を決める、という役割分担になっています。
ここは通説と食い違う結果です。厚生労働省の睡眠ガイドは、冬に睡眠時間が長くなる主な原因を日長時間(日の出から日の入りまでの時間)の短縮としています。ところがこの研究では、日の入り時刻を含めて日照の寄与が検出されませんでした。論文自身、季節差は体内時計が日長の変化に同調した結果だと解釈されるのが一般的だと断ったうえで、「意外なことに」自分たちのデータでは日照の寄与が見つからなかったと書いています。どちらが正しいかは、この1本では決まりません。
東京の月平均気温の平年値は、9月が23.3℃、10月が18.0℃。5.3℃下がります。論文はここまで踏み込んでいませんが、先ほどの係数をこの差にそのまま当てはめると8分ほどで、実際に観測された12分の大半にあたります。残りが何かまでは、この計算では分かりません。
暑いと、眠りは途切れる
気温が効く道すじは、厚生労働省の睡眠ガイドが説明しています。
人の深部体温(脳や内臓の温度)はおよそ24時間周期で動き、日中に上がって夜に下がります。眠りに入るとき、手足の皮膚の血流が増えて体の熱が外へ逃げ、深部体温が下がり始める。その下がり始めが、入眠のスイッチです。寝室が暑いと熱の逃げ場がなくなるので、このスイッチが入りにくくなります。
実際、夜中に目を覚ましている時間は季節ではっきり変わります。8月は49.0分、12月は35.3分。睡眠効率(ベッドにいた時間のうち実際に眠っていた割合)も、7月の89.3%から12月の92.6%まで上がります。睡眠ガイドも「夏の寝室の室温上昇時に、睡眠時間が短縮し、睡眠効率が低下することが、実生活下の調査によって報告されています」と書き、夏の寝室はエアコンで涼しく保つことが重要だとしています。
秋に眠りが伸びるのは、何かが増えたからというより、夏のあいだ削られていたものが戻ってくると考えたほうが近そうです。
ただし、伸びるのは中高年に偏っている
ここで、正直に書いておかなければならないことがあります。
先ほどの6万8千人はホルター心電計をつけた人たちなので、各月の平均年齢は60代半ばでした。若い世代の数字ではありません。しかもホルター心電計は心臓の検査に使う装置なので、心血管疾患が疑われた人が多く含まれます。論文自身がこれを選択バイアスとして挙げています。
年代ごとに分けた調査は別にあります。国立健康・栄養研究所が2004年から2007年にかけて行った食事摂取の季節変動調査に相乗りして、15歳から89歳までの1,388人に春・夏・秋・冬の4回、睡眠時間をたずねたものです。同じ人に4季節聞いているので、記憶に頼って「冬は長い気がする」と答えてもらう調査より確かめやすくなっています。
結果は、全体では冬がいちばん長く夏がいちばん短い。冬と夏の差は約11分でした。ところが年代で分けると、様子が変わります。
| 年代 | 冬と夏の睡眠時間の差 |
|---|---|
| 15〜39歳 | 季節による差は認められなかった |
| 40〜64歳 | 約10分 |
| 65〜89歳 | 約22分 |
15歳から39歳では、季節による変化が統計的に検出されませんでした。15歳から20歳だけを取り出しても同じでした。中年層と高齢層では、秋が夏より有意に長いことも確かめられています。
この年代差と、高齢層がどの季節でも長く眠っていたことについて、論文の著者は学校や仕事の有無を挙げています。高齢の参加者には睡眠を制限する社会的な要因が少ないので自然な季節性が出やすく、若い世代と中年層は学校や職場に合わせて睡眠を削っている可能性がある、という見立てです。著者らは「この推測が正しければ、日本の学校や仕事の始業時刻は再検討されるべきだ」とまで書いています。
季節のほうは眠りを長くしようとしている。それを打ち消しているのが、毎朝同じ時刻に鳴る目覚ましのほうだ、ということになります。秋に眠気が強いのは、体が求める長さと実際に眠れる長さの差が、いちばん開く時期だからとも読めます。
寒くなりすぎるほうは、意外と問題にならない
では冬に向かってどこまでも涼しいほうがよいのか。外の気温のほうは、さきほど書いたとおり5℃を下回ると逆を向きます。ただし寝室の温度に限れば、ひとまず問題になりません。睡眠ガイドは「冬に寝室温が低下した場合に、睡眠が悪化することを示した報告は乏しく、十分に寝具を用いることで寝床内が暖かく維持された場合には、睡眠への影響は少ない」としています。布団の中さえ暖かければ、部屋の空気が冷えていても眠りは崩れにくい。
ただし、眠り以外の理由で室温は下げすぎないほうがよいとも書かれています。夜中にトイレへ立ったときや早朝の起床時に急な寒さにさらされると血圧が急上昇し、脳卒中や心筋梗塞につながるおそれがある。WHOの住環境ガイドラインは冬の室温を18℃以上に保つことを勧めています。
もうひとつ、寝つきについては別の報告があります。冬に行われた調査では、就寝前に過ごす部屋の室温が低いと、寝つくまでの時間が延びることが示されました。寝室は涼しく、寝る前に過ごす部屋は暖かく。分けて考えるとよさそうです。
よくある質問(FAQ)
Q. 涼しくなると睡眠時間は本当に伸びるのですか?
伸びます。日本人68,604人の体の動きから睡眠を推定した研究では、平均睡眠時間が9月の6時間45分から10月の6時間57分へ、ひと月で12分伸びました。いちばん短い7月と、いちばん長い1月の差は約40分です。
Q. 何分くらい伸びるのですか?
調べ方によって幅があります。上の研究では9月から1月にかけて33分。厚生労働省の睡眠ガイドは、夏に比べて冬は10〜40分程度長くなるとしています。日本の地域住民1,388人に4季節たずねた調査では、冬と夏の差は約11分でした。なお睡眠ガイドは、この季節変動の主な原因を日長時間の短縮としています。
Q. 若い人でも伸びますか?
そのデータでは、15歳から39歳の層に季節による差は認められませんでした。差がはっきり出たのは40歳以上で、65歳以上では冬と夏で約22分違います。論文の著者は、若い世代と中年層が学校や仕事のために睡眠を削っている可能性を挙げ、それが正しければ日本の学校や仕事の始業時刻は再検討されるべきだとしています。
Q. 早く眠くなるということですか?
いいえ。就床時刻は1年を通して22時13分から22時26分の範囲でほとんど動きません。変わるのは起床時刻のほうで、9月の6時01分から1月の6時27分まで後ろへずれます。伸びるのは朝の側です。
Q. なぜ暑いと眠りが浅くなるのですか?
眠りに入るときは、手足の皮膚から熱を逃がして深部体温を下げる必要があります。寝室が暑いと熱が逃げにくく、この切り替えがうまくいきません。実際、夜中に目を覚ましている時間は8月が49.0分、12月が35.3分と大きく違います。
Q. 秋冬の寝室は寒いほうがいいのですか?
睡眠そのものについては、寝具で布団の中が暖かければ室温が下がっても影響は少ないとされています。ただし急な寒さは血圧を上げるため、WHOは冬の室温を18℃以上に保つことを勧めています。また寝る前に過ごす部屋が寒いと、寝つくまでの時間が延びるという報告もあります。
寝室の温度を意識してみるなら、まず測るところからです。温湿度計はYahoo!ショッピングで探せます。体感の「涼しい」と数字は、案外ずれています。
まとめ
涼しくなると睡眠時間が伸びるのは、体感だけの話ではありません。日本人68,604人の実測で、平均睡眠時間は9月の6時間45分から10月の6時間57分へ、ひと月で12分伸びていました。ただし伸びたのは朝の側です。就床時刻が1年で13分しか動かないのに対して、起床時刻は28分動き、9月から1月にかけて26分ぶん後ろへずれます。気象条件のうちこの研究で睡眠時間を説明したのは気温だけで、1℃下がるごとに約1.6分でした(睡眠ガイドは主な原因を日長時間の短縮としており、ここは食い違っています)。暑いと手足から熱を逃がしにくく、深部体温が下がらないので眠りが途切れます。夜中に目を覚ましている時間は、8月の49分から12月の35分まで減っていきました。もっとも、この季節性がはっきり出るのは40代以上で、15歳から39歳では検出されていません。季節は眠りを長くしようとしているのに、始業時刻がそれを許していない、ということのようです。今週あたり、目覚ましを10分だけ後ろにずらしてみる余地があるなら、体はそのぶんを使うかもしれません。
参考サイト
- https://www.frontiersin.org/journals/digital-health/articles/10.3389/fdgth.2021.677043/full | Li L, Nakamura T, Hayano J, Yamamoto Y「Seasonal Sleep Variations and Their Association With Meteorological Factors: A Japanese Population Study Using Large-Scale Body Acceleration Data」Frontiers in Digital Health 3(2021年・68,604人の月別睡眠指標と気象要素の回帰分析)
- https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0215345 | Suzuki M ほか「Seasonal changes in sleep duration and sleep problems: A prospective study in Japanese community residents」PLOS ONE 14(4): e0215345(2019年・1,388人を4季節追跡、年代別の差)
- https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf | 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(季節による睡眠時間の変動・深部体温と入眠・温度の環境づくり・WHOの室温18℃)
- https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=44&block_no=47662 | 気象庁「東京 平年値(年・月ごとの値)」(1991〜2020年の月平均気温)
