浅煎りと深煎り、カフェインが多いのはどっち?|昇華点は178℃なのに、減り始めるのは豆が204℃を超えてから

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「深煎りは苦いからカフェインも多い」「いや、焙煎で飛ぶから浅煎りのほうが多い」。どちらもよく聞く話です。しかも両方とも、もっともらしく聞こえます。
査読つきの研究をたどると、答えははっきりしています。カフェインは焙煎でほとんど壊れません。ただし、ある温度を超えたところから減り始めます。そしてその温度が、想像よりだいぶ高いところにありました。
焙煎はカフェインをほとんど壊さない
まず出発点です。アラビカ2品種とロブスタ2品種を浅煎り・中煎り・深煎りの3段階で焙煎して比べた研究(2011年)では、焙煎度はカフェイン量に有意な影響を与えませんでした。
2025年の別の研究も同じ結論です。焙煎が深くなると、2-フルフラールやヒドロキシメチルフルフラール、クロロゲン酸といった成分は大きく変わるのに、カフェインだけは安定していたと報告されています。
コーヒーの成分の多くは熱で入れ替わっていくのに、カフェインはそこにいすわり続ける。まずこれが基本です。
減り始めるのは焙煎減量14〜16%を超えてから
とはいえ、まったく減らないわけでもありません。2024年に『Scientific Reports』に載った研究は、品種・焙煎度・抽出時間を組み合わせた30通りを分析して、こう報告しています。
カフェイン濃度が最大になるのは、焙煎による重量減少が約14〜16%のあたり。おおむね浅煎りから中煎りの範囲です。それより深く煎ると、カフェインは減っていきます。
ここに、この記事でいちばんおもしろい数字が出てきます。カフェインの昇華点は、常圧で178℃。焙煎の温度はふつうこれを超えるので、単純に考えればどんどん飛んでいきそうです。ところが実際に減り始めたのは、豆の温度センサーが約204〜216℃を示してからでした。
差は30℃以上あります。論文はその理由についても注記していて、豆の内部温度は表面のセンサーが示す値より系統的に低いこと、そして焙煎という条件下での実際の昇華温度は文献値より高いと考えられることを挙げています。豆の中は、外から測るよりずっと涼しいということです。
「同じ抽出条件」と「同じ収率」で答えが割れる
同じ研究には、もうひとつ大事な指摘があります。抽出液のカフェイン濃度を比べると、答えが2通りに分かれるのです。
- 同一の抽出条件で比べると 深煎りの抽出液のカフェイン濃度は、浅煎り・中煎りより概して低い
- 同一の収率で比べると 深煎りのほうが概して高い
「深煎りはカフェインが少ない」も「深煎りのほうが多い」も、条件をそろえ方しだいで両方成り立ってしまう。ネット上で説が割れているのは、たぶんここが原因です。
豆は軽くなり、そして膨らむ
もうひとつ、家で淹れるときに効いてくる話があります。焙煎すると豆は水分を失って軽くなり、同時に内部に空洞ができて膨らみます。
走査電子顕微鏡で断面を測った結果では、豆の中の空隙率は生豆の13.6%から、最も深い焙煎で45.8%まで増えていました。X線マイクロCTを使った別の研究でも、焙煎中に空隙率が最大60%増えると報告されています。重量のほうは、アラビカ種で11〜19%減ります。
軽くなって膨らむので、密度は下がります。ということは、スプーンなど体積で量ると、同じ1杯でも深煎りのほうが豆の実質量は少なくなる計算になります。これは密度の変化からの推論で、そう測定した研究は見つかりませんでした。気になるなら、キッチンスケールで重さを量るのがいちばん確実です。
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そもそも「浅煎り」「深煎り」に公的な定義がない
ここまで「浅煎り」「深煎り」と書いてきましたが、この言葉自体に決まった定義があるわけではありません。
日本の「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約」を全文検索しても、「深煎」「浅煎」「シティ」「フルシティ」「フレンチ」「イタリアン」はひとつも出てきません。規約が定めているのは「炭焼」「遠赤外線焙煎」といった焙煎方法の表示ルールだけです。
全日本コーヒー協会は、ライトロースト/シナモンロースト/ミディアムロースト/ハイロースト/シティロースト/フルシティロースト/フレンチロースト/イタリアンローストの8段階の名前を挙げていますが、温度も重量減少率も示していません。スペシャルティコーヒー協会(SCA)でも、焙煎度の試験方法の規格はいま策定中の段階です。
研究者側も同じ認識で、先ほどの2024年の論文は「焙煎度を普遍的かつ精密に定量する標準的な方法は現在存在しない」と書いています。誰も決めていない。だから店ごとに「深煎り」の指す範囲が違っても、それは間違いではありません。
深煎りが苦いのは、苦味の中身が入れ替わるから
最後に味の話も。「深煎りは苦い」は、単に苦味が強くなるという意味ではありません。苦味をつくっている物質そのものが入れ替わります。
中くらいの焙煎では、クロロゲン酸ラクトン(キナイド)という、コーヒーらしい苦味の成分が優先的に生まれます。焙煎をさらに進めると、それが分解して、フェニルインダン類と呼ばれるより荒い苦味の成分に移っていきます。
そのクロロゲン酸自体も激減します。生豆では1グラムあたり61〜86ミリグラムあるのに、市販の焙煎豆では2〜7ミリグラム。10分の1以下です。浅煎りに酸味があって深煎りにないのは、この差から来ています。
よくある質問(FAQ)
Q. 浅煎りと深煎り、カフェインが多いのはどちらですか?
カフェインは焙煎でほとんど分解しないため、大きくは変わりません。ただし2024年の研究では、カフェイン濃度が最大になるのは焙煎減量14〜16%(おおむね浅煎り〜中煎り)で、それより深く煎ると減っていくと報告されています。
Q. 焙煎するとカフェインは飛ぶのですか?
カフェインの昇華点は常圧で178℃ですが、実際に減り始めるのは豆の温度センサーが約204〜216℃を示してからです。豆の内部温度は表面で測る値より低いためで、焙煎温度が178℃を超えたからすぐ飛ぶ、という単純な話ではありません。
Q. 深煎りのほうが軽いと聞きました。本当ですか?
本当です。焙煎で水分が抜けて重量が減り(アラビカ種で11〜19%)、同時に内部の空隙率が生豆の13.6%から最大45.8%まで増えるため、密度が下がります。スプーンなど体積で量ると、深煎りのほうが豆の実質量は少なくなる計算です。
Q. 「深煎り」に決まった基準はありますか?
ありません。日本の公正競争規約に焙煎度の定義はなく、SCAでも試験方法の規格は策定中です。研究者も「焙煎度を普遍的かつ精密に定量する標準的な方法は現在存在しない」としています。
Q. 深煎りはなぜ苦くて、浅煎りはなぜ酸味があるのですか?
焙煎が進むと、コーヒーらしい苦味をつくるクロロゲン酸ラクトンが分解して、より荒い苦味のフェニルインダン類に移ります。酸味のもとになるクロロゲン酸は、生豆の1グラムあたり61〜86ミリグラムから、市販の焙煎豆では2〜7ミリグラムまで減ります。
まとめ
カフェインは焙煎でほとんど壊れません。減り始めるのは焙煎減量14〜16%を超えてからで、昇華点178℃より30℃以上高い、豆の温度が204〜216℃に達したあたりからです。いっぽうで豆は軽く、そして中身がすかすかになっていくので、体積で量ると深煎りのほうが実質量は少なくなります。そして「浅煎り」「深煎り」という言葉自体には、公的な定義がありません。カフェインの量で選ぶより、酸味と苦味のどちらが好きかで選ぶほうが、結局は自分の一杯に近づけます。
参考サイト
- https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11586412/ | Lindsey ZR ほか (2024) Scientific Reports 14:29126(焙煎度とカフェイン濃度・昇華の温度域・空隙率)
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25212328/ | Hečimović I. ほか (2011) Food Chemistry(焙煎度はカフェイン量に有意な影響を与えない)
- https://doi.org/10.1016/j.foodchem.2025.143169 | Alcantara GMRN ほか (2025) Food Chemistry(焙煎による成分変化とカフェインの安定性)
- https://doi.org/10.1016/j.jfoodeng.2024.112096 | Al-Shemmeri M. ほか (2024) Journal of Food Engineering 378:112096(X線マイクロCTによる空隙率の測定)
- https://doi.org/10.1021/jf900012b | Moon JK, Yoo HS, Shibamoto T (2009) J. Agric. Food Chem.(生豆と焙煎豆のクロロゲン酸量)
- https://doi.org/10.1021/jf9044606 | Blumberg S, Frank O, Hofmann T (2010) J. Agric. Food Chem. 58(6)(焙煎度と苦味成分の入れ替わり)
- https://www.ajcft.org/agreement/180521_agreement_pdf_b.pdf | 全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約」
- https://coffee.ajca.or.jp/column/4472/ | 全日本コーヒー協会(焙煎度合いの8つの呼び名)
- https://sca.coffee/research/coffee-standards | Specialty Coffee Association「Coffee Standards」(SCA-131は策定中)
