秋の七草は食べない|春の七草と何が違う? 万葉集の2首が決めた7つの花

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1月7日には七草粥を食べます。では秋の七草は、何をする日なのか。
答えは「何もしない」です。秋の七草に、食べる行事も、決まった日付もありません。もとになっているのは1300年前の歌が2首だけで、その歌がしていることは、野の花を指折り数えることでした。
秋の七草を決めたのは、万葉集に並ぶ2首
奈良時代の歌人・山上憶良(やまのうえのおくら)が『万葉集』巻八に残した2首が出典です。題詞は「山上臣憶良、秋の野の花を詠む歌二首」。
1. 数える歌(1537番)
秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
秋の野に咲いている花を指を折って数えたら、七種類あった。歌の中身はそれだけです。
2. 並べる歌(1538番)
萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 女郎花(をみなへし) また藤袴 朝顔(あさがほ)の花
7つの名前を並べただけで、五七五七七にも収まっていません。この2首目が、そのまま今日まで「秋の七草」として伝わっています。
並ぶのはハギ、ススキ(尾花)、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、そして「朝顔の花」の7つ。料理も儀式も出てきません。憶良は野を歩いて、目に入った花を数えただけです。
春の七草との違いは「食べるか、数えるか」
春の七草は、1月7日の人日(じんじつ)の節句に七草粥として食べます。こちらは文献にはっきり残っていて、現在と同じ7種が並ぶ最も古い例は、鎌倉時代初期の『年中行事秘抄』(1220年ごろ)とされます。
「せり なずな ごぎょう はこべら 仏の座 すずな すずしろ これぞ七草」という五七五七七の形は、室町時代の『梵灯庵袖下集』(1384年ごろ)に現れ、いま口ずさむのとまったく同じ言い回しは、江戸時代の『日本歳時記』(1688年、貝原益軒編)で確認できます。
対して秋の七草は、鎌倉から江戸までの七草関連の文献をたどっても、食べたという記録が見当たりません。もとの歌が数える歌なので、食べる話が出てこないのはむしろ自然です。春は行事食、秋は観賞。同じ「七草」でも、始まりから役割が違います。
7つ目の「朝顔の花」は、たぶんアサガオではない
7つのうち6つは名前がそのまま今の植物を指しますが、最後の「朝貌(あさがほ)の花」だけ、何を指すのかが定まっていません。
いちばん有力とされるのがキキョウ説です。平安時代初期の漢和辞典『新撰字鏡』(901年ごろ)で、桔梗の字に「あさがほ」の読みが当てられている、というのが根拠として挙げられます。
いっぽう、現在のアサガオ(ヒルガオ科)は、下剤に使う生薬の種として中国から持ち込まれたとされます。渡来の時期や経路に定説はありませんが、奈良時代の野で数えるほどありふれた花だった可能性は低いと考えられています。
ほかにムクゲ説、ヒルガオ説もあり、決着はついていません。歌に残った名前と、いま同じ名前で呼ばれている植物が、必ずしも同じものとは限らないということです。
7つはいつ咲くのか
7種の花期を並べるとこうなります。キキョウは環境省の種の解説、ほかは園芸情報によるものです。
| 花 | 花期 |
|---|---|
| ハギ(萩) | 6月中旬〜10月下旬 |
| ススキ(尾花) | 8〜9月ごろ |
| クズ(葛) | 8月中旬〜9月下旬 |
| ナデシコ | 7〜10月 |
| オミナエシ(女郎花) | 8〜10月 |
| フジバカマ(藤袴) | 10月上旬〜11月中旬 |
| キキョウ(桔梗) | 7〜8月 |
意外なのはキキョウです。環境省の種の解説では花期が7〜8月とされていて、9月にはもう終わりかけ、10月にはほぼ咲いていません。フジバカマはその逆で、10月に入ってようやく本番を迎えます。7つが同時に咲きそろう日は、実はありません。
これは、憶良の言う「秋」が旧暦の秋だからです。旧暦では立秋(いまの8月上旬)から秋が始まるので、8月にススキとキキョウとクズが咲いているうちが、歌の中の秋の野ということになります。いま私たちが秋と感じる時期より、ひと月ほど早い。
キキョウとフジバカマは、いま準絶滅危惧
7つのうち2つは、環境省のレッドリストに載っています。2025年3月に公表された第5次レッドリストで、キキョウとフジバカマはどちらも準絶滅危惧(NT)です。
掲載の理由は種によって違い、キキョウは「過度の採取圧による圧迫」、フジバカマは「河川開発による生育条件の悪化」が挙げられています。キキョウは第4次まで一段上の絶滅危惧II類(VU)でしたが、第5次で準絶滅危惧に見直されました。
園芸店で普通に苗が売られている花が、野生ではそうではない。秋の七草の中には、そういう花が混じっています。
よくある質問(FAQ)
Q. 秋の七草は食べられますか?
クズは根が葛粉、ハギの若葉やオミナエシの若芽も食用にされることがありますが、七草粥のような「7つをまとめて食べる」行事は伝わっていません。秋の七草は観賞するものとして受け継がれてきました。
Q. 秋の七草に決まった日はありますか?
ありません。春の七草が1月7日の人日の節句と結びついているのに対し、秋の七草は特定の日に行う行事を持っていません。
Q. 覚え方はありますか?
頭文字を並べた「お・す・き・な・ふ・く・は」(オミナエシ、ススキ、キキョウ、ナデシコ、フジバカマ、クズ、ハギ)という覚え方が広く知られています。歌の順番とは違いますが、7つを思い出すには便利です。
Q. 「朝顔の花」はどの花ですか?
キキョウ説が有力とされますが、ムクゲ説・ヒルガオ説もあり、定説はありません。少なくとも、いま夏に咲かせるアサガオを指している可能性は低いと考えられています。
Q. 7つ全部を野で見られますか?
花期がずれているため、同じ日に7つそろうことはまずありません。8月ならキキョウ・ススキ・クズ・ナデシコ・オミナエシ、10月以降ならハギの終わりとフジバカマ、という見え方になります。
歌そのものを読んでみたい方は、万葉集の現代語訳をYahoo!ショッピングで探せます。
まとめ
秋の七草は、山上憶良が万葉集に残した2首の歌がそのまま名簿になったものです。1首目で「指折り数えたら七種あった」と言い、2首目で7つの名前を並べる。それだけの歌に、1300年ぶんの人が付き合ってきました。春の七草が粥になって暮らしに残ったのに対し、秋は数えて眺めるかたちのまま伝わっています。花期を調べるとキキョウは8月までで、7つが同時に咲く日は来ません。だからこそ、歩いていて1つ見つけるたびに指を折る、という楽しみ方が似合います。
参考サイト
- https://art-tags.net/manyo/eight/m1537.html | 万葉集データベース「たのしい万葉集」巻八 1537番歌(西本願寺本を底本とする原文・訓読)
- https://art-tags.net/manyo/eight/m1538.html | 同 巻八 1538番歌
- https://ikilog.biodic.go.jp/rl_rdb/d/338.html | 環境省「いきものログ」キキョウ RL/RDB(第5次レッドリスト・2025年3月公表、花期の記載あり)
- https://ikilog.biodic.go.jp/rl_rdb/d/359.html | 環境省「いきものログ」フジバカマ RL/RDB(第5次レッドリスト・2025年3月公表)
- https://ikilog.biodic.go.jp/rl_rdb/list/ | 環境省「第5次レッドリスト・レッドデータブック 絶滅危惧種検索」
- https://www.benricho.org/koyomi/nanakusa-bunken.html | 便利庁「鎌倉時代からの文献に見る七草の種類」(『年中行事秘抄』『梵灯庵袖下集』『日本歳時記』などの原本影印を提示)
- https://kotobank.jp/word/%E6%96%B0%E6%92%B0%E5%AD%97%E9%8F%A1-538885 | コトバンク「新撰字鏡」(成立年代)
