アイスとホット、同じ豆なのに味が違うのはなぜ?|79人で試したら、温度で6つの風味が変わった

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朝晩が涼しくなって、そろそろアイスからホットに戻す時期です。同じ店の同じ豆なのに、ホットにした途端に別の飲み物のように感じることがあります。
これは気のせいではありません。同じコーヒーを3つの温度で79人に出した実験では、6つの風味の感じ方が温度によってはっきり変わりました。そして舌の側にも、温度でスイッチが入る仕組みが見つかっています。
同じコーヒーを5℃・25℃・65℃で出した
2017年に発表された研究では、19歳から76歳までのコーヒーを飲む人79人(女性51人・男性28人)に、同じコーヒーを5℃、25℃、65℃の3つの温度で出しました。冷たい・常温・熱いの3条件です。
そのうえで、香り・風味・味・口当たりの項目を選んでもらい、温度によって選ばれ方が変わるかを統計的に調べました。
結果、温度によって有意に違ったのは次の6つです。
- 刺激のある香り(pungent aroma)
- 焙煎の香り(roasted aroma)
- 金属的な風味(metallic flavor)
- 焙煎の風味(roasted flavor)
- 硫黄のような風味(skunky flavor)
- 苦味(bitter taste)
中身も淹れ方もまったく同じで、違うのは温度だけ。それでも、飲んだ人が感じ取るものがこれだけ入れ替わりました。
緑茶は18項目が変わった
同じ研究では、緑茶でも78人に同じ試験をしています。こちらで温度によって有意に変わったのは18項目でした。
香りでは動物的な香り・花のような香り・ハーブのような香り・焙煎の香り・刺激のある香り。色では茶色・緑・黄色。風味ではまろやかさ・ナッツのような風味・焙煎の風味・刺激のある風味。味では苦味・酸味・甘味。口当たりでは渋みとなめらかさ。そして後味の苦味です。
論文は、緑茶の官能特性のほうがコーヒーより温度変化に敏感だったと結論づけています。日本茶に「熱すぎると渋い」「ぬるめでうま味が出る」といった温度の作法が細かくあるのは、この敏感さと無関係ではなさそうです。
舌の側にも、温度のスイッチがある
なぜ温度で変わるのか。理由のひとつは、舌の受容体そのものが温度に反応するからです。
甘味・うま味・苦味の信号を伝えるのに欠かせないTRPM5というイオンチャネル(細胞の膜にある通り道)があります。2005年にネイチャーで発表された研究は、これが熱に強く反応するチャネルであることを示しました。
具体的には、15℃から35℃のあいだで、流れる電流が急激に増えます。さらにマウスでは、同じ15〜35℃の範囲で温度を上げると、甘い物質に対する味神経の応答が著しく強まりました。TRPM5を持たないマウスでは、この強まりが起きません。
論文は、この温度感受性が「人間で知られている温度の効果の基盤になっているかもしれない」と書いています。高い温度で甘味を強く感じることや、舌を温めたり冷やしたりするだけで何も口に入れずに味を感じる温度味覚という現象のことです。マウスの実験なので人でそのまま同じとは言い切れませんが、ちょうど飲み物の温度帯にスイッチが置かれているという事実は変わりません。
香りのほうも、温度で立ち方が変わる
もうひとつは香りです。コーヒーの香りは揮発性の成分が鼻に届くことで感じられるので、液体が熱いほど成分が空気中に出やすくなります。
実際、上の研究で温度によって有意に変わった6項目のうち、3つは香りと風味でした(刺激のある香り・焙煎の香り・焙煎の風味)。舌で感じる苦味だけでなく、鼻に届く側も動いているということです。
1杯を飲み終えるまでのあいだに味の印象が動くのは、舌と鼻の両方が温度に合わせて反応を変えているからです。
だから、冷めたコーヒーは「薄い」のではない
放っておいたコーヒーが物足りなく感じるとき、中身がごっそり減ったわけではありません。受け取る側の感度が変わっているぶんのほうが、ずっと大きく効いています。
逆に言えば、アイスコーヒーは冷たい状態で成立するように作られています。深めに焙煎した豆を使ったり、濃いめに抽出したりすることが多いのも、冷たさで引っ込む要素をあらかじめ補う狙いだと考えると筋が通ります。ホットと同じ設計のまま冷やすと、ぼやけて感じられます。
季節の変わり目に「いつもの豆が違う」と思ったら、豆が変わったのではなく温度が変わったことを疑ってみてください。同じ豆をホットで淹れ直すと、夏のあいだ気づかなかった香りが出てくることがあります。
よくある質問(FAQ)
Q. 温度が変わると、コーヒーの味の何が変わるのですか?
79人を対象にした2017年の研究では、刺激のある香り・焙煎の香り・金属的な風味・焙煎の風味・硫黄のような風味・苦味の6項目が、5℃・25℃・65℃のあいだで有意に変わりました。
Q. 温かいと甘く感じるというのは本当ですか?
甘味の信号を伝えるTRPM5というチャネルが15〜35℃で急に働きやすくなることが分かっており、マウスでは同じ温度帯で甘い物質への応答が強まります。研究者はこれが人での温度の効果の基盤かもしれないとしていますが、人で直接確かめられた段階ではありません。
Q. コーヒーと緑茶では、どちらが温度に敏感ですか?
同じ研究の比較では緑茶のほうが敏感でした。温度で有意に変わった項目がコーヒーは6つ、緑茶は18ありました。
Q. 冷めたコーヒーが苦く感じるのはなぜですか?
苦味は温度によって感じ方が変わる項目のひとつです。また熱いうちは香りの成分が立ちやすく、冷めると立ちのぼる香りの顔ぶれが変わります。中身が変化したというより、受け取り方が変わっています。
Q. 何℃で飲むのが正解ですか?
正解はありません。温度によって前に出る要素が入れ替わるので、同じ1杯でも熱いうちと少し冷めてからで印象が変わります。飲み進めながら変化を追うと、その豆の幅が分かります。
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まとめ
同じコーヒーを5℃・25℃・65℃で79人に出した実験では、6つの風味の感じ方が温度によって有意に変わりました。緑茶ではその数が18になり、緑茶のほうが温度に敏感だと結論づけられています。舌の側では、甘味・うま味・苦味の信号を伝えるTRPM5が15〜35℃で急に働きやすくなる。鼻の側では、温度によって立ちのぼる香りの成分が入れ替わる。アイスからホットに切り替えて味の印象が変わるのは、豆でも腕でもなく、受け取る側が温度に合わせて反応を変えているからでした。
参考サイト
- https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2017.02264/full | Pramudya & Seo "Influences of Product Temperature on Emotional Responses to, and Sensory Attributes of, Coffee and Green Tea Beverages" Frontiers in Psychology 8:2264(2017年/コーヒー79名・緑茶78名、5℃/25℃/65℃、有意差のあった官能特性)
- https://www.nature.com/articles/nature04248 | Talavera et al. "Heat activation of TRPM5 underlies thermal sensitivity of sweet taste" Nature 438, 1022-1025(2005年/TRPM5の電流が15〜35℃で急増、マウスの味神経応答)
